シェアードメジャメント/共有評価を阻む課題とは

シェアードメジャメント/共有評価、5つのメリット」でも解説しているように、シェアードメジャメント(Shared Measurement)/共有評価には大きなメリットがあります。しかし、やはり世の中いい話ばかりではありません。シェアードメジャメント/共有評価を実際にやっていこうとすると数多くの障害や課題に直面します。今回はこれらの課題を「準備面」、「構築面-プロセス」、「構築面-プロダクト」、「運用面」の4つの切り口から解説していきます。

準備面

何事も入念な準備が大事ですが、シェアードメジャメント/共有評価についても同じです。むしろ準備で躓いてしまうとその後の展開に大きな障害を残すことになるでしょう。

ボトムアップを重視すること

シェアードメジャメントシステムを構築するには、必要十分な参加者を巻き込む必要があります。
そして、これらの参加者を納得感の高い状態でつなげる必要があります。

助成財団やファンド、投資家だけで作ってしまい、これらの資金提供者のみの意向で活用されることは避けねばいけません。このようなトップダウンのやり方では、シェアードメジャメントシステムが押し付けになってしまい、学びや改善、開発といった目的で活用されなくなる恐れがあるからです。

議論を重ねつつ、必要十分な関係者の合意を基にしたボトムアップのステップを踏んでいかなくてはならないでしょう。

必要十分な関係者間での合意があること

シェアードメジャメントの根幹は「共有する」というところにあります。
共有するということを言い換えれば、関係者間で合意がされているということになるでしょう。

また、社会的インパクト評価は専門的な知見を必要とすることも多いので、大学教員などの専門家も巻き込んだ上で、より多くの関係者間でコンセンサスがなされていることが重要になります。

合意を取り付ける上で、以下の3点が特に重視されます。
・組織間で優先順位と期待することの違いを理解すること。
・組織間で組織的な文化と評価への価値観が違うことを理解すること。
・組織間で評価能力にばらつきがあることを理解すること。

連携するコストと向き合うこと

誰かと何かをするにはコミュニケーションをとったり、歩調を合わせたりと手間がかかります。
多くの場合、この手間を嫌がって連携することを避けるようです。

シェアードメジャメントには大きな可能性を秘めていることは間違いないですが、これがそのまま連携するコストを上回るかどうかはまた別問題です。やはり、しっかりと関係者間でのコミュニケーションをとることが大切です。

役割と責任の明確化

別々の組織で連携する場合、各自の役割分担を明確にしておく必要があるでしょう。
当然のことと思われそうですが、シェアードメジャメントシステムを運用までもっていく過程で一番白熱するのは、共有する指標を設定する段階だといわれています。このメインディッシュへ意識が行き過ぎて、役割と責任の明確化が中途半端なままで進んでしまうという落とし穴があるという点も覚えておく必要があるでしょう。

構築時にどのような役割分担をするのかも重要ですが、運用時に誰がデータを集めるのか、データを分析するのかについても決めておく必要があります。

資金負担の明確化

シェアードメジャメントシステムを構築し運用するためには、お金がかかります。
このお金を誰がどのように負担するのかといった点を準備の段階で詰めておく必要があります。

多くの場合、財団やファンドのような組織が、システム構築に係る経費を負担する例が多いようです。

構築面-プロセス

ここではシェアードメジャメント/共有評価システムを構築していくにあたり、どのような課題やリスクがあるのかについて解説します。整理のため、プロセスとプロダクトの2つに分けています。理由は、シェアードメジャメント/共有評価の定義によるものですが、詳しくは「Shared Measurement/共有評価がインパクトを加速させる」を参考にしてください。

資源の限界と向き合うこと

ここでいう資源とは、資金・人材・物資・情報・ノウハウなどの経営資源のことを指します。そして、当たり前のことですが、これらの経営資源には限りがあります。

いくらシェアードメジャメントが魅力的だとは言え、盛り込む範囲や規模感などは資源の制約を受けやすいということを理解しておかなくてはなりません。準備できる資源とシェアードメジャメントのクオリティとを天秤にかけた上で、取り組んでいく必要があるでしょう。

評価プロセスの複雑さを理解すること

社会的インパクト評価自体の困難さも考慮する必要があります。
単体の組織で社会的インパクト評価をする場合でさえ、非常に密な議論が必要になるにも関わらず、複数の組織でこれを実施するにはより複雑になるでしょう。

そもそも何が社会課題なのか、その原因は何なのかについてしっかり議論し考えなくてはなりません。

組織的な混乱と障害

シェアードメジャメントは多くの組織間で推進されるので、参加している個別の組織内で大なり小なり混乱が生じます。言い換えれば、各参加組織の内部でも、シェアードメジャメントについてのコミュニケーションが必要になるということです。

さらに、全ての人が賛同するとは限らず、そのうちの誰かが、シェアードメジャメントシステムの構築について後ろ向きな行動をとることもあるでしょう。このような個別組織内における葛藤をいかに克服するかにも意識をしなくてはならないでしょう。

構築面-プロダクト

次は構築面のプロダクトについてです。プロダクトとは、評価指標やそれを共有するための情報技術などのツールについてを指します。この部分は、「社会的インパクト評価とは」も参考にしてください。

十分なデータが得られない

社会的インパクト評価は、データありきのものでもあります。
データが取れなければ、社会的インパクト評価もロジックモデルやセオリーオブチェンジも意味を持たなくなってしまいます。

十分なデータが取れない原因として、倫理的にデータ収集が困難であること、コストがかかりすぎること、難易度が高すぎることなどが挙げられます。社会的インパクト評価全般にいえることですが、このような壁をいかに超えていくかがポイントになるでしょう。

評価や分析の能力の限界

個別の組織で社会的インパクト評価をやるよりも、多くの人が関わる分、評価や分析の能力に関しては若干向上します。

しかし、そうは言っても評価や分析に係るコストとの兼ね合いでこの能力にも限界はやはりあります。
重要なことは、分析能力の限界を理解した上で、できる範囲で最も効果的な分析を行うことです。また、なんでもかんでも分析していては、際限なく広がってしまいます。本当に必要な本質的な点を見極め集中することが大切でしょう。

比較の困難性

シェアードメジャメント特有の課題として、その社会的インパクト評価を本当に異なる組織間で共有できるのかという点が挙げられます。このことを比較困難性と言ったりもしますが、非常に重要な論点です。

異なる社会サービスを提供している組織間で同じ社会的インパクト評価を適応する際、一筋縄ではいかないことの方が多いように感じます。このとき考えなくてはいけないことは、よりアウトカムを明確にしつつ、指標を特定することです。短期・中期・長期のそれぞれのアウトカムを明確に定義することで、より高い次元で社会的インパクト評価を共有(シェア)できるのではないかと思います。

情報共有をする範囲

収集したデータの中には、プライバシーに関わるものも多く存在します。
このようなデータをどの範囲のメンバーで共有するのかは明確に決めておく必要があります。さもなければ、個人情報の保護の観点から、制裁を受けることになるかもしれません。

特に、収入の増加や意識の変化に関する内容のデータには、
このためにも、ちゃんとしたデータを扱うためのポリシーを作って明確にしておく必要があるでしょう。

指標の構成について

これは、社会的インパクト評価を実施するにあたり、どの指標を設定するのかという点です。
個別でやる場合は、各組織内でのコンセンサスでいいですが、シェアードメジャメントの場合、どの指標を使うのか、またその組み合わせはそれでいいのかという点まで共有しておかなくては正常に機能しないという事態に陥ります。

運用面

シェアードメジャメントシステムの形が一通りできても、そこからも大変です。維持・管理して運営をしていく必要があるからです。シェアードメジャメントが実行性を持てるかどうかはここにかかっています。

能力強化の必要性

シェアードメジャメントによって、指標の共有ができたとしても、その指標を活用したマネジメントが各組織内において実施されなければ意味がありません。

このようなマネジメントはほっておいてできるようになるものではないので、やはり能力強化(キャパシティビルディング)が必要になります。キャパシティのある組織がそれ以外の組織をレクチャーしたり、活用するためのガイドラインを作成したりするなど色々な取り組みが想定されます。

維持するための手間とコスト

維持費の存在も無視できません。
構築時にも大きなコストや手間がかかりますが、維持する際にも様々な手間とコストがかかります。例えば、指標の構成や進捗のモニタリング、関連組織の能力強化、オンラインのサイトを持っていれば、その管理費などが挙げられるでしょう。

この維持費を誰がどのように負担するのかといった点も、準備の段階でしっかりと詰めておく必要があるでしょう。

まとめ

今回は、シェアードメジャメントを実施する際の課題についてまとめてみました。

準備面、構築面、運用面のそれぞれで考慮しなくてはいけないことがあり、大変なようにも感じます。しかし、これらの壁を一つ一つクリアすることで、大きな社会的価値を生み出すことができるのでしょう。
No pain, no gain…大変であるからこそ、その先に大きな飛躍があります。

参考文献

・CENTRE for SOCIAL IMPACT(2014)An Introduction to shared measurement system
・Inspiring Impact(2014)The future of shared measurement
・Yehonatan Almog, Jack Habib(2013)The Role of Shared Measurement in Collaborations and its Effective Implementation – What Have We Learned Thus Far?